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最終更新日 2004/01/08

 ベネズエラ<その3>

失われた世界ギアナ高地3<グランサバナ>

グランサバナ

ベネズエラの長距離バスはむちゃくちゃ寒い。ボリビアのウユニ塩湖並みに寒い。この冷凍庫バスの理由については諸説ある。@運転手が買った肉を客席に積んでいるから。A苦情が出ないように客を弱らせておくため。B強弱の調節ができないので、つけるか切るかのどちらかしか選択肢がないから。最も有力なのはどうもAのようだ。高いバスは座席は快適だが凍死寸前の激寒で乗客は冷凍まぐろのようにだまりこんでいる。防寒着か寝袋必携なので手荷物がやたらとかさばる。安いバスは座席が引っこ抜けるほどガタがきているが、クーラーがないことが多い。たまに座席が悪くてクーラーがめちゃめちゃ効いている安いバスにあたる。これはもう最悪。

<1日目>2003年11月30日(エル・パウヒ泊):朝9時半、3時間遅れでサンタ・エレナ・デ・ウァイレン着。先週、この路線、シウダー・ボリーバル〜サンタ・エレナ・デ・ウァイレン間でドラッグが見つかったらしく、途中で検問が3回もあり、おかげで3時間も遅れたのだ。ツアー客のドイツ人夫婦二組と一緒だったが、5人とも一晩凍っていたので、降りてもすぐには口をきく元気もない。なんで大枚払って、こんな八甲田山みたいな思いをせにゃならんのだ。

ターミナルには、グランサバナのドンキホーテこと、リカルドが迎えにきてくれていた。40歳をとうにすぎているくせに、顔に大きなすり傷をこさえている。そんなおっさん、おらんでまったく。年よりくさくまとまりがちな滝めぐりツアーが、この人がガイドするとまったく退屈じゃなくなるのだ。彼のフルネームは、リカルド・アルフォンソ・キハノで、本当にドンキホーテと同じ名前なのだ。ただし、彼はロバのロシナンテの代わりにランクルを駆る。

グランサバナツアーは、サンタ・エレナ・デ・ウァイレンを基点としたサバンナツアー。オランダとほぼ同じ大きさのカナイマ国立公園には300以上もの滝がある。そのうちのいくつかをめぐるのがこのツアーだ。ツアー期間はだいたい3〜5日だが3日あれば充分楽しめる。ツアーは3日で75ドル(交通費とガイド料のみの価格。1日25ドル×日数がツアー料金となる。食事と宿泊は含まないが、オールインクルーシブよりもかなり割安。)からだが、このときはアドレナリンの車が修理中で代わりをレンタルしたため、代理店のHP素材のための写真撮影も兼ねた、無料ご招待の予定だったにもかかわらず、どうしても採算が合わず、Bs.30000だけ自腹を切った。

 

ポソ・エスメラルダ

まず、エル・パウヒという村の近くのポソ・エスメラルダで水浴びした。滝つぼは4メートルほどの深さがあり、飛びこめる。サンタ・エレナまでは寒く、そこからはうってかわって暑かったので、水が気持ちよくて生きかえったよう。その後は村に帰って昼食。先住民のソース、クマチェが出てきた。焼肉につけて食べたら、めちゃくちゃうまかった。ユカ芋のしぼり汁であるジャレを20時間煮こみ、さらに材料を加えて12時間煮る。ユカのしぼり汁は長時間加熱しないと有毒である。この時点ではクマチェという。それに白アリを加えたものがカタラと呼ばれ、時季によってはアリではなく、バッタを入れる。本当にうまい!

 

コロンビアまで続くアマゾン アビスモからの夕景

アビスモというビューポイントに登る。すぐそばにウオイパンというテプイ(テーブルマウンテン)が見える。コロンビア、そしてボリビアまでアマゾンのジャングルがはるかに続いている。木々の深い緑の上に薄く白く霧がたなびき、さらに夕日が射している。落ちて死んだ人がいる崖の上で、チュパカブラ(いわゆるキャトルミューティレーションを引き起こすと言われている怪物。家畜の体内の血を地面にこぼすことなく、一滴残らず吸う。大好きなXファイルにも、チュパカブラは実は宇宙人だったというようなエピソードがアンデスを舞台に登場したことがある。)はおるのだろうかというような愚にもつかないばか話をしながら、暗くなるまで眺めていた。

 

ビタミンいっぱいマルバ

エル・パウヒは自然派というか、いわゆるヒッピー村である。夜は、そんなヒッピーファミリーのひとつ、パウリスタの家に遊びにいく。パウリスタはそのあだ名の通り、サン・パウロ出身のブラジル人で元々金鉱を掘っていた人だ。このあたりでは、金やダイアモンドが出る。サンタ・エレナの町中には買取所がたくさんある。しかし、掘削は河川の汚染などの環境破壊を引き起こす。パウリスタはそれが嫌になって、金探しを止め、今はマルバという植物のお茶や薬効のある木、タカマハカのお香(5本入りBs.3000。グアテマラはアンティグアのセマナサンタで焚くお香みたいなにおいがする。問い合わせは、スペイン語でtacamajaca2000@hotmail.comまで。)をつくったりして売っている。

夜はけっこう冷えこむので火を焚いて暖をとる。パウリスタの奥さんが、ツアー客それぞれの誕生日を示す、マヤカレンダー(マヤは中米、メキシコからホンジュラスあたりにかけての文化。南米、ベネズエラにはまったく関係ない。)をつくってくれるという。こんなベネズエラくんだりでなぜかマヤカレンダー! タカマハカのお香を焚いて、温かいマルバのお茶を飲んで、ハンモックに寝っ転がって、カレンダーができあがるのを待っているうちに寝こんでしまった。宿に帰るからと起こされたときには、みんなすっかりできあがっていて、スペイン語も英語もできないため、一日中無口だったドイツ人の女の人が、太鼓を叩きながらボブ・マーリーの「No Woman No Cry」を大声で気持ちよさそうに歌っていた。ベネズエラくんだりでスペイン語も英語もできなかったら、さぞかしストレスがたまることだろう。現地の人とのコミュニケーションはもちろんスペイン語、外国人同士は英語だ。どっちもだめならかなりつらい。すでに夜中の1時。村の外れの道路兼滑走路をぶっとばして帰る。この滑走路には、コロンビアやブラジルからセスナがしょっちゅう飛んでくるらしい。なにを運んでいるかは言うまでもない。

 

カテドラル滝

<2日目>2003年12月1日(サンタ・エレナ・デ・ウァイレン泊):ドイツ人一同が二日酔いでくらくらなので、1時間遅れで出発。まずはカテドラル滝へ。滝の近くでグランサバナで採れる蜂蜜やマルバのケーキを売っている店の人が、「こないだ日本人6人ばかしが撮影に来たよ。お人形みたいにかわいい女の子を連れてね」とおしえてくれた。てっきり、10月1日に放送された『水曜スペシャル』 “藤岡弘、探検シリーズ第3弾…南米ギアナ高地 切り裂かれた大地の闇に謎の地底人クルピラは実在した!!”と藤森夕子のことだと思っていたら、どうも12月14日に放送された『道浪漫』“緑の魔境ギアナ高地”とはなのことだったようだ。

サバンナのところどころにモリチャレスがにょきにょき立っている。モリチャレスは一見、ヤシの木のように見えるが、ヤシではなく、ペルーでいうところのアグアへだ。ペルーのイキトスではジュースやアイスキャンデーにしたもの、そして堅いうろこのような皮をむいた果実が10個ずつ、道端で売られているが、ここベネズエラではまず食べることはない。誰にも見向きもされない、鈴なりのモリチャレスに、イキトスで飲んだアグアヘジュースの味を思い出して、もったいないなと思った。

プエルタ・デ・シエロ

ベンタナ・デ・シエロ

リカルドがお守りにするようにと水晶(6cm×3cmくらいでBs.5000。安いんだか、高いんだか。)を買ってくれた。このあたりの先住民であるペモン族は、誰もさわれない自分だけの水晶を持っている。滝の水で清めたり、太陽に曝したりして、そのエネルギーを高めると持ち主を守ってくれるのだという。ここから先、グランサバナにいる間中、私のものになった水晶は私と一緒に滝にうたれ、太陽の光を浴びて、持ち主である私しかさわれないお守りとなった。

 

段差のある川はすべて滝 滝の上に立つ サバンナの日暮れ

天国の門(プエルト・デ・シエロ)をくぐって、天国の窓(ベンタナ・デ・シエロ)にたどりつく。さらに森の木々をかきわけて登り、滝の上に立って、サバンナを見渡す。滝の落ち出すぎりぎりのところまで寄ると、すぐ足下に清流が緑に吸いこまれていくように落ちていくのが見えた。怖さも忘れてしばらくのぞきこんでいた。こんなふうにあのエンジェルフォールの上にも立ってみたいと思った。

いったんサンタ・エレナまで戻る。グランサバナの西をまわり終え、明日から北をめぐる。

 

赤いジャスパー石 ハスペの清流

<3日目>2003年12月2日:信じられないことに、車にガソリンを入れるのに4時間かかったので、9時半出発。ベネズエラは産油国なのでガソリンがべらぼうに安い。1リットルBs.95! 水は1.5リットルでBs.1000だから、水の代わりにガソリン飲みたいくらいに安いのだ。サンタ・エレナの目と鼻の先はブラジルで、彼らはお互いにパスポートなしで出入りができるから、安いベネズエラまで越境してガソリンを入れにくる。だから、サンタ・エレナのガソリンスタンド前にはベネズエラナンバーとブラジルナンバーの車がそれぞれ二列にわかれて、日本の帰省ラッシュの高速道路のように気が遠くなるほど延々と渋滞している。それゆえ、朝5時半に並んでも給油するまでに4時間かかるのだ。

今日はリカルドによるグランサバナツアー最大のハイライト、アラペナメルー(コルティナ・デ・ジュルワニ)の滝くぐりをする。その前に赤いジャスパー石(スペイン語ではハスペ。タイルなどに使われる。)の滝に行く。ハスペはまるで赤い水が流れているように見える、きれいな滝でとても気に入っている。

ハスペ滝 トラの肌 赤い水が流れているかのよう 緑に包まれた清流

 

アラペナメルー

いよいよアラペナメルーの滝くぐり。足の先っちょだけ白い猫みたいに靴下をはく。苔ですべらないようにだ。メルーとはペモン語で滝のこと。アラペナは一見そうは見えないが、実はその流れの下がえぐれてトンネルのようになっているので通ることができる。しぶきでやられるので、持っていきたいのはやまやまだが滝の下にデジカメは持っていけない。パタゴニアの山の中で吹雪に阻まれ、荷物をすべて捨てて避難するときでさえ、救助してくれたレンジャーに内緒でこっそり持ってきたデジカメを泣く泣く車に残した。

こんな流れのきつい滝をくぐるのは、bien loco(いい感じにばか)なリカルドのツアーだけ。だって、これは流されたら間違いなく死ぬ激流だ。だからこそ、死ぬほど面白い。ニュージーランドで台風で尋常じゃないほど増水して前日に3人死んだ川でラフティングをやったことがあるが、あれもむちゃくちゃ面白かった。山でもどこでもちろんむこうみずなむちゃはいけないが、身の丈ぎりぎりの命がけだからこそ、なにごとも面白いのだ。

岩をつたって水幕の合間から滝の下にもぐりこむ。途中、立ちあがれないほど岩の隙間が狭いところは匍匐前進する。水音がすごいから口をきいても無駄だ。すぐ隣にいる人にさえ、まったく声が届かない。英語が話せる方のドイツ人女性が苔で転んで少し流されそうになった。隣にいる私にはっきり聞こえるほどの大きな悲鳴をあげた。たいして流されてもいないのにすっかりパニック状態に陥っていて、つるつるすべる苔の上で足をばたばたさせている。彼女の腕をつかんで私の方へひきよせてやるとようやく黙った。「ねえちゃん、落ち着いてさえいれば、たいがいのことはなんとかなるもんやで」と口には出さなかったが心の中で思った。川幅は40メートルほど。流されないように気をつけながら滝に打たれる。あまりに面白くてなぜだか笑いがこみあげてきて、思わずげらげら笑い出してしまった。ふと隣を見ると、あまりの恐ろしさにさっきのドイツ人のねえちゃんがおんおん泣いている。その向こうではドイツ人のおっちゃんがリカルドに向かって、「アドレナリーン!」とにこにこして叫んでいる。滝の下はまさに阿鼻叫喚図。滝から岸に生還したとたん、”You really scared me !”とドイツ人ねえちゃんがリカルドにつかみかからんばかりの勢いで、涙目で怒っている。まったく叫んだり泣いたり怒ったり忙しい人だ。

 

ラグーナ・スルアペ 天然のウォータースライダー

ラグーナ・アスル

呵呵大笑の後は、おとなしく天然ウォータースライダーに流される。20メートルほどどんぶらすべっていく。川底がケツにあたってけっこう痛いぜ、こんにゃろ。流れが強くてなかなかあがれず、なすがままに流されているとリカルドが血相変えてとんできた。そのまま流されていくと30メートル落ちることになるらしい。あまりに面白いので、こりずに何回もすべる。打撲で痛むケツをその後ラグーナ・アスルで冷やしたが、それから2週間は痛んだ。

 

カマメルー

カマメルーから望む

グランサバナ

お次はカマ滝。高さ60メートルくらいだろうか。リカルドに「今度はなにやるの。この上から飛びこむ?」とうれしそうに私が訊くと「残念だけどその時間がない」と言った。それはもちろん冗談で、滝つぼを泳いで滝の真下までいくのだが、今日はあいにくその時間がなくて残念だった。「もっと”危険”で楽しいことがしたい」とリクエストすると、もうひとつとっておきの”危険”なネタがあると言っていた。いったいどこでなにをやるつもりなのやら。

 

トラアメン・カラウリン・イルー 向こうにワダカピアポテプイ 眠れるインディアン

これまで天気に恵まれてきたが、ここで雨に降られる。ロライマとクケナンが見えるポイントに行くが、厚い雲におおわれてその影さえも見えない。カナイマ国立公園で一番高いのがロライマで2810メートル。一番広いのがケレパクパイメルー(エンジェルフォール)のあるアウヤンテプイで700平方キロメートル。実はクケナンにもトレッキングルートがあるにはあるのだが、ペモン族にとってクケナンは聖山なので登らせたくないのだそうだ。

 

雲間から射す陽光 グランサバナに沈む夕日

<後日談>
グランサバナから持ち帰った水晶は今でも肌身離さず持ち歩いている。北アルゼンチンのターミナルで知り合ったおねえちゃんにもらった、財布に入れておけばお金に不自由しない石と、その後ベネズエラで密入国から成功者となった日本人にもらった、金の入った石とともに3つも持ち歩いている。たいへんありがたいことなのだがやはり重い。

日本人の嗜好にはグランサバナツアーはあまりあわないんじゃないかと予想していたのだけれど、ものの見事にはまってしまった。オーストラリアやニュージーランドをランクルでめぐるようなツアーが好きな人も、グランサバナにはまることうけあい。プチ苛酷なことを経験してみたい人におすすめのツアーだ。

 

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