最終更新日 2006/03/15
ベネズエラ<2005年>
ロライマ山ヘリコプター登頂<カナイマ国立公園>
2003年6月に5泊6日でえっちらおっちらトレッキングした道のりがヘリコプターならひとっ飛び。トレッキングとヘリコプター登頂。もちろんそれぞれよさがある。とにかくロライマの見え方はまったく異なる。トレッキングには敵うまいとか思っていたのだが、負けずとも劣らずこれもおもしろい。1時間1000ドル出す価値は充分にある。しかも、操縦士はTBS 「世界遺産」 第140回「カナイマ国立公園U」のカメラを飛ばした、サンタ・エレナ・デ・ウアイレン一の腕利きラウル(→RAUL HELICOPTER'S)。
ちなみにこの第140回はサンタ・エレナの投宿先にあったので見てみたのだが、139回とあわせて2回に分かれていて前編がロライマ山、後編がエンジェルフォールであった。この2箇所を1編にまとめれば、間延びせずによい番組となったと思う。しかし、ベネズエラでこれだけ空撮すれば費用がかさむ。特にエンジェルフォールにヘリを飛ばそうとすれば、最寄の空港があるカナイマ村までセスナで燃料を運ばなければならず、ヘリをチャーターするなら同時にセスナもチャーターしなければならなくなる。そのため、ロライマよりもエンジェルフォールの空撮は高くつく。
ロライマにしてもエンジェルフォールにしてもいずれにせよ、カナイマ国立公園内の撮影には許可料がいる。昨今はキューバよりのチャベス大統領が君臨しているため、外国人、特にアメリカ人やアメリカよりの国の人々などは観光に来なくてもよいという高飛車な姿勢なのだ。その証拠に2006年3月1日からコンチネンタル航空、デルタ航空、フェデックスのベネズエラ乗り入れが全面禁止、アメリカン航空の乗り入れ便の一部が禁止になった。以降、日本からベネズエラへはカナダ経由かヨーロッパ経由で行くことになってしまった。
ベネズエラの撮影は高くつくため、「世界遺産」はカナイマ国立公園を2編に分けざるを得なかったのだろう。そのため、前編はロライマ山、その隣にあるクケナン、そしてその周辺のテプイ(ペモン族の言葉でテーブルマウンテンを意味する)を延々と映しているのだが、よっぽどのマニアでもないかぎりテーブルマウンテンばかり30分も見ていたらさすがに飽きる。ナレーターの緒方直人が黙りがちなのは気のせいではない。あまりに似たような形の山ばかりなのでコメントすることが尽きたのだろう。
トレッキングでは5泊6日の道のりがほんの10数分で着いてしまう。5泊6日と言うとすざましい距離のように思えるが、実はそうではない。うち2日が山頂泊である。山のふもとから登り始めて登頂までわずか4時間しかかからない。それどころか、往きの初日から3日目までは1日4時間しか歩かない。これはおそらくポーターが食料やテントを背負っているので重くてつらいからだろう。帰りの5日目はポーターもほとんど手ぶらなので、昼食を挟んで4時間ずつ8時間歩く。それならポーターを雇わずに自分で荷物を背負って、1日8時間歩きたいところなのだがそうはいかない。なぜなら地元のポーターを雇わなければ、入山できないシステムがすでにできあがっているからだ。
地べたを歩いてみなければ見えないことがある。たとえばロライマまでの道のりには、プリプリと呼ばれるサンドフライがたくさんいて刺されるといつまでも猛烈に痒いこと。しかし、ホタルもたくさんいて地上に星空が降りてきたかのように美しいこと。同様に空を飛んでみなければ見えないこともある。歩いて山の頂に立つことはできても見下ろすことはできない。飛ばなければ鳥瞰することはできない。しかも、山頂もふもとも似たようにのっぺりして見えるほど高く飛びすぎては意味がない。ほどほどの迫力が得られ、なおかつ安全を確保できる高度を保たなければならない。セスナでは滑走路のない山頂への着陸は無理なので、自ずと選択肢はヘリコプターに限られる。山を見下ろす光景にお目にかかれるのは普段はテレビくらいなものだが、2005年11月、今回はそのテレビ番組の撮影でベネズエラに来ていた。
着陸寸前のヘリから見たロライマ山頂
ヘリでサンタ・エレナを発ち、グランサバナ上空を飛び、ロライマ山頂へ。プレゼン用のスチールを撮るため、窓を開けるとさすがに頬がこわばるほど冷たい風がバシバシ入ってくる。あまりの寒さに手がかじかむので撮るたびに小まめに窓を開け閉めする。身を乗り出すと目に強風が入り、悲しくもないのに涙が出た。しかし、あまりに美しさにめんどくささを忘れて何度も何度もシャッターを切る。仕事だから仕方なくやっているのではなく、あまりの神々しさにそうせずにはいられなかった。
前回2年前にロライマ山頂に来たときは、雨季のはじまりということもあって天気が悪かった。標高2810メートルと高さはないが、それでも天候は目まぐるしく変わる。それがどうだ。今日は快晴である。こんな快晴は本当に珍しいとベテランパイロットのラウルは言う。前回は月面のように剥き出しの岩肌に霧がかかっていた。ベネズエラ、ブラジル、ガイアナの三国国境のトリプルポイントから見下ろした先にはガイアナの濃い緑の森が広がっているはずだが、濃霧に覆われ白く煙ってなにも見えなかった。殺伐としていたのは景色だけでなかった。そのときの精神状態もかなり悪かった。小雨の降り続けるロライマ山頂を絶望的な気持ちで自分の心象風景として眺めていた。しかし、今度は鼻歌が思わず出そうなこの青空である。仕事でなければ一晩泊まってゆっくりしてから帰りたいところなのだが、今日はロケハンなのでそういうわけにもいかない。普段は天候の急激な変化に備えて、エンジンを回したままヘリを待機させておくのだが、今日は大丈夫だとラウルはエンジンを止めた。天候不良のため、着陸できないことさえあるというのに本当に運がよい。
珍しく青空が爽快なロライマ山頂
今回の番組の主旨はエコツーリズムの功罪。ロライマ山頂に生息する4000種の植物のうち、固有種は75パーセント。そのほとんどがパイナップル科と食虫植物である。中にはパイナップル科でなおかつ食虫植物というものもあり、それは非常に珍しいそうだ。本来あってはならない下界の植物がすでにはびこっているとの情報がもたらされていた。その情報を検証するのがこのロケハンの目的である。
固有種の周りに外来種がはびこっている ロライマ固有の植物 すでに外来種が混じっている 固有種の蛙オリオフリネラ
トレッキングコースに沿っていわゆる芝や稲、薄に似た雑草が生えているのがヘリコプターを降りてすぐに目についた。下界から鳥が飛んできて糞をするのは太古の昔から繰り返されてきたはずだ。それでも外来種がテーブルマウンテン上で育つことはなかった。しかし、人が多く足を運ぶようになってから植生が変わったのである。キャンプサイトの周りはさらにひどく、わらびや野いちごも生えていた。最寄の村、パライテプイ・デ・ロライマから2日かけて歩いてくる間、トレッカーやポーターの靴や服に付着した種子が山頂に運び上げられるのだ。そして、食べられる植物の種子は排泄物として蒔かれ発芽する。雑草は強いので駆除することなく、このまま放置しておくとそのうちに固有種が駆逐されてしまうおそれがある。
野いちご わらび 雑草 心ない落書き
ガイドがロライマの隣にあるクケナンについておもしろい話をしてくれた。グランサバナの民、ペモン族はクケナンを女体に見立てる。彼らにとってクケナンは聖山であるが、実はすでにトレッキングコースがあり、ロライマほどではないがトレッキングツアーが出ているし、頂上にヘリコプターも着陸する。ペモン語でクケナンとは”死にたい”という意味なのだそうだ。彼らにとってクケナンは死ぬために登る山なのだそうだ。これはどういうことなのか。数年前にペモン族の若者三人がクケナンに登った。そのうちの一人が二人と離れ、そのまま行方不明になってしまった。捜索隊が不明者を探したが、死体どころか携行品も見つからないまま、捜索は打ち切られた。そんなことがそれまでも何度もあったらしい。観光客が行方不明になったことはなく、不明者はいずれもペモン族だという。だから、昔からクケナンは死にに行く山なのだ。話の真偽のほどはともかくとして、聖山クケナンがロライマと同じように踏み荒らされてしまうことは彼らペモン族にとっておもしろくないはずだ。観光客は当然のこと、ペモン族の誰もを登らせないために、クケナンでの行方不明者の話が語り継がれてきたのだろう。
ロライマ山の縁
最近ロライマ山頂に世界最大の砂岩洞窟が見つかった。その内部調査の模様は、2006年1月24日、NHK・BSハイビジョン「ハイビジョン特集 世界自然遺産を行く 天空から降る巨大瀑布 ギアナ高地 カナイマ国立公園」で放送された。これはすごいことなのだが、見ている側にとってはただ暗い穴に入っているだけで少々退屈であった。製作側もそれがよくわかっているらしく、ずいぶん時間をかけて洞窟探検を撮っただろうに、2時間番組内でその割合はかなり抑えられていた。アウヤンテプイ山頂でカメラマンが命綱を着け、ぎりぎりまで寄ってエンジェルフォールを撮っていた。この映像は迫力満点だった。こういう番組のカメラマンは大学の探検部出身者でもなければ務まらないだろう。
ガイアナ側にヘリでまわりこめば、大きな船の舳先のような雄大なロライマの姿が見られるのだが、あいにく今日はそちら側には雲で覆われているらしく断念。ガイアナ側からのロライマは、関野吉晴著「ギアナ高地」に美しい写真が載っている。三国が国境を接しているトリプルポイントは、ガイアナとベネズエラ間の領土紛争地帯である。ヘリコプターがガイアナ側にまわりこむということは、ガイアナにしてみれば領空侵犯なのだがベネズエラにとっては自国領土なので問題にはならないようだ。1時間のツアーで来るとロライマ山頂にいられるのは15分足らずほどか。キャンプポイントから往復半日はかかるトリプルポイントはもちろん、水晶の谷にも行けない。往復の足としてヘリを使い、2、3日山頂に滞在できればよいのだが、費用のかさむ贅沢なツアーになるだろう。
離陸してロライマとクケナンの上を低く飛んだ後、ヘリは崖のすきまを急降下した。足元が急に抜けて落ち始めたかのような衝撃だった。これはパイロットのラウルの十八番であるらしい。乾季で水が少ないときは橋の下もくぐったりするようだ。お客への彼なりのサービスである。ラウルはすでに日本語で挨拶くらいはできるが、さらに日本語を習いたがっている。ヘリをチャーターするのは日本人のお客さんが多いからだそうだ。日本語学習の定番テキスト「みんなの日本語」スペイン語版をラウルへのおみやげとして、12月に撮影隊に持っていってもらった。
グランサバナを低空飛行すると小山がたくさん連なっているのがわかる。これが全部蟻塚。急にヘリが方向を変えたのでどうしたのかと思えば、大アリクイがいた。こちらに気づいて逃げようと慌てている。アリクイにあるはずのないたてがみがあったので、よく見たらアリクイの子供だった。振り落とされないようにしがみついている。このあたり一帯にアリクイはたくさんいるはずなのだが、ペモン族がアリクイを食べることはない。ペモン族は猪や鹿、獏を狩る。ペモン族の家、チュルワタがぽつぽつ見えてきた。まもなくサンタ・エレナに到着する。
今回ロケハンのお手伝いをさせていただいた番組は、テレビ朝日 「素敵な宇宙船地球号」 第419回「世界遺産の光と影VOL.1」〜ギアナ高地の悲鳴〜として2006年3月5日に放送された。
ペモン族のチュルワタ
旅雑記<04年・05年>目次