最終更新日 2003/11/03
ベネズエラで七転八起
<2003・9・19掲載>
今、ベネズエラはシウダー・ボリバルで働いている。パラグアイに続いて南米で二度目の不法労働。どうもひたすら暑い国で暴落通貨を稼ぐ運命にあるらしい。ついてないときはついてないし、くよくよ考えてもなるようにしかならない。前回は農作物の日本への輸出だったが、今回は旅行代理店だ。
当初は涼しいカナイマ国立公園で世界最長の滝、エンジェルフォールの現地ガイドをやる予定だったのだが、ベネズエラ国内の治安悪化により今年は観光客が激減しているため、はるばるエクアドルから戻ってきたというのに仕事がなかった。だからといって、中米への旅を続ける気にはなれなかった。中米は今、雨季なのだ。雨季が終わるまでまだ二ヶ月はある。
というわけで、エンジェルフォールの玄関口、シウダー・ボリバルにいる。6月にエンジェルフォールツアーを申し込んだ旅行代理店で働いている。ツアーを探すときにいろいろ代理店をまわったが、この店が一番まともだった。トラベラーズチェックの両替なども親身になってやってくれたし、ツアー料金も良心的だった。歩合制でたいして稼げないけれど、とりあえずこの二ヶ月、足が出なければよいのだ。
8月末に働き始めてすぐに問題が転がりこんだ。
一足先にシウダー・ボリバルに着いて、他の代理店を通してツアーに行っていた友人夫婦がエンジェルフォールから戻ってきた。シウダー・ボリバルで申し込んだ代理店にちゃんと遊覧飛行の料金を払っていたにもかかわらず、カナイマでの受け入れ先の代理店にそのお金が渡っていなかったためにフライトできなかったのだと言う。
それだけではない。彼らはエンジェルフォールツアーとロライマ山トレッキングを組んだのだが、料金に含まれているはずのその間を移動するバス代を自分たちで払わされたと言う。他にも、エンジェルフォール最寄の村カナイマからロライマ山最寄の町サンタ・エレナ・デ・ウァイレンまでのフライトでエンジェルフォールの上空を飛ぶという約束だったのに飛ばなかったりと、代理店の言ったことと実際がことごとく違っていたそうだ。
カナイマからサンタ・エレナまでのフライトは、飛行機一台をまるごとチャーターでもしない限りはエンジェルフォールの上を飛ぶことはない。客に申し込ませたいばっかりに、できもしないことをできると口からでまかせの調子のいいことを言ったのだろう。それにしてもひどい話だ。
友人夫婦は申し込んだ代理店に遊覧飛行料金とサンタ・エレナ−シウダー・ボリバル間のバス代の払い戻しを求めた。午前中に一度行き、夕方4時に返すと言われた通りに出直してきたら、なんと先方は警察を呼んで待っていた。
警官二人にパスポートとツアー内容のかかれたバウチャーの提示を求められた友人は、バウチャーを泊まっているホテルに取りに戻るふりをしてその場を逃れ、助けを求めてきた。そこでまだコピーを取っていないバウチャーを警官に渡してしまえば、こちらに証拠は一切残らない。証拠隠滅である。ベネズエラのどぐされ警官はちょっと金を握らせたら、それくらいは平気でやる。
働いている代理店のオーナーのアドバイスに従い、その日はそのままその代理店には戻らず、翌日観光局に訴えた。観光局に呼び出された代理店のオーナーと従業員は観光局の職員が席をはずした隙に、ちゃんと用意して待っていたのにどうして金を取りにこなかったとヤクザのようにすごんでみせた。
観光局をはさんでの話し合いは予想通りに難航した。
友人夫婦は南米が長いだけあって用心深く、ツアーの内容を事細かにすべてバウチャーに書かせていた。しかし、バスのチケットは彼らの渡したお金でガイドが買ったため、彼らの手元には残っておらず、証拠がないために取り返すことができなかった。遊覧飛行料金の35ドルはもちろん1人分で、彼らは2人分で70ドルを払っていたのだが、バウチャーには「もし飛ばなければ35ドル返す」と英語で書かれており、それを先方は2人分で35ドルだと言い張った。
バカを言うな、どこの世界にそんな安いフライトがあるとテーブルをはさんで私たちは思わず苦笑した。まるで子供のいいわけだ。通訳で入っていた私が観光局の職員に彼らが使っている航空会社に電話して料金を確かめるように頼むと、それが1人分であることがあっさり明らかになった。結局、70ドル払い戻されることになったのだが、問題はそこからだ。
友人夫婦は遊覧飛行を含む、ツアー料金の半分をドル現金、半分をドルのトラベラーズチェックで払ったのだから、当然ドル現金での払い戻しを要求した。ところが、先方はここはベネズエラなのだからベネズエラ通貨ボリバルで払うと主張する。しかも、70ドル×公定レートの1600ボリバルで払うと言う。冗談じゃない。闇レートは2500ボリバルで、違法ではあるが実質的にはこちらが本当のレートである。違法なレートで払い戻すことはできないから公定レートで払うのだと言う。その代理店ももちろん闇レートでお客に支払わせている。それを指摘すると彼らはますます大声で同じことを繰り返しまくしたてた。
どこまで腐り切った連中なのだろう。そんなレートだと友人夫婦が大損をする。こちらがドル払いにこだわると、先方は半分をドル現金で半分をドルのトラベラーズチェックで払い戻すと言ってきた。「いいでしょう、もちろん新品のチェックですよね?」とこちらが確かめると、友人夫婦が支払時にサインしたチェックをそのまま返すのだと彼らは言った。
絶句した。再発行申請でもしなければ、そんなものは使いものにならない。そのあと、スペイン語の罵詈雑言が口をついて出そうになったがぐっと押さえて、日本語で友人夫婦に「こいつら、ほんまにクルクルパーや」と言うだけにとどめた。温厚な友人もついにぶち切れて英語で怒鳴っている。
最終的に、時間のない友人夫婦は70ドル×2000ボリバルで折れ、14万ボリバルが戻ってきた。確かに今のベネズエラではドルを売るのは簡単だが買うのは難しい。それにしても、誠意のかけらもない態度に頭にきた。
とりあえず一件落着と言いたいところなのだけど、それだけでは終わらない。
この友人夫婦とロライマ山で一緒にトレッキングをするために、彼らの後を追って同じツアーに申し込んだ友人がもう一人いたのである。彼は問題の代理店で友人夫婦のちょうど逆パターン、先にロライマ山、その後にエンジェルフォールでツアーを組んでいた。サンタ・エレナ−カナイマ−サンタ・エレナと飛び、そのまま彼はブラジルに抜ける予定だった。
先にツアーを終えた友人夫婦は心配し、観光局で代理店と調停中に彼の話題を持ち出し、彼が申し込んだ通りにちゃんとやってほしいと言った。すると、代理店の従業員はこう言い放った。「バウチャーに書かれていないことはやる必要はない」その友人は不注意にもバウチャーにツアー内容を書かせなかったのである。代理店の従業員はそのことをちゃんと知っていた。つまり、始めからそのつもりでわざとバウチャーに書かなかったのだ。
さて、サンタ・エレナからブラジルに抜けるはずの友人がわざわざ予定を変更してまでシウダー・ボリバルに戻ってきた。それもそのはずで、彼はカナイマでエンジェルフォールのツアーと遊覧飛行代をもう一度払ったのである。先の友人夫婦と同様、やはりカナイマでの受け入れ先の代理店にそのお金が渡っていなかったのだ。ツアーに含まれているはずなのに彼が自腹を切った内訳は、カナイマからのエンジェルフォールツアー65ドル+遊覧飛行35ドル。それにこのトラブルのため、シウダー・ボリバルからまたサンタ・エレナに行かなければならなくなったのでそのバス代とシウダー・ボリバルでの宿代3泊分として20ドルが余計にかかった。今回はそれらの合計120ドルを請求した。
このような調停で矢面に立つのは常に通訳である。同じ相手に対して二度、同じ通訳が入ると恨みを買い、報復されるおそれがあるため、今度は現地在住の日本人にコンタクトを取り、その方におねがいした。
二度目の交渉は40分ですんなり解決した。現金100ドルと残り20ドル×闇レート2500ボリバルが戻ってきた。さすがに二度目はまずいと思ったのだろう。この代理店はもう一度、観光局に訴えがあると営業免許取り消しになるそうだ。この二件のツアーを担当した従業員はこの代理店を首になった。
「どうして彼らはうちで申し込まなかったんだ?そしたら、そんなトラブルにはならなかったのに」と働いている代理店のオーナーが訊くので「向こうの方が安かったんだよ」と応えた。すると、オーナーは「そんならもっと安くしてやる」とあっちこっちにかけあい、エンジェルフォールツアーを120ドルに引き下げた。もちろん、サービスも食事の質も落とすことなくだ。これは現在、シウダー・ボリバルでの最安値である。
たとえ悪徳代理店が営業免許取り消しになったとしても、代表者を替えればまた営業免許が取れる。首になったヤクザまがいの従業員もすぐにバスターミナル内の別の代理店で働き始めた。
今日もカナイマで日本人が一人、怒っている。催行人数に足りずに遊覧飛行が出なかったのだが、また例の旅行代理店が調子のいいことを言ったようだ。彼は世界一周3年目のつわものなのだが、それでも見極めるのは難しい。今回はお金はそのまま戻ってくるようだが、エンジェルフォールに来ることはもうないかもしれないのだからお金だけの問題ではないのだ。
また明日観光局に行くことになるかもしれない。日本人にはあまり知られていないがベネズエラは観光資源に恵まれた国である。しかし、観光業界で働いている者でさえも観光客に対するマナーがなっていない。南米というところはどうしてこうもだめなのかと日本人である私は今日もまた嘆くのだ。
注:これからエンジェルフォールに来る人は、シウダー・ボリバルのホテルイタリア、ホテルコロニアル、ホテルリッツに入っている旅行代理店ではツアーを申し込まないでください。看板は違いますが中身は一緒です。それがこの文中に出てくる問題の代理店です。2003・9・19 ベネズエラ・シウダー・ボリバル