最終更新日 2002/09/21
ラティーノの異常な愛情
または私は如何にして心配するのを止めてマテを愛するようになったか
<2002・9・9掲載>
マテという飲み物がある。日本に出稼ぎに来ていた日系ブラジル人の友人に連れられ、彼らの御用達の店で買って飲んだのが最初だった。ティバッグのマテは緑茶のようでくせもなく飲みやすかった。以来、マテというものはそういうものだと思っていた。その後スペイン・バルセロナのユースホステルでアルゼンチン人パッカーにすすめられて飲んだマテはまったく違う代物だった。当時はドルとアルゼンチンペソは1対1の固定相場だったから、ヨーロッパの中でもとりわけ物価が安くて、同じスペイン語が話されているスペインを旅行するアルゼンチン人は多かった。なぜか彼らは群れる。ひとり旅のアルゼンチン人、およびラティーノに会うことはまずない。そして、彼らは暇さえあればマテをまわし飲みする。そのときは椰子の実でつくったでっかい器でまわってきたが、アルゼンチンではひょうたんでつくられたものをよく見かける。茶器そのものもマテと呼び、どこかのずぼらなやつが考えついたのだろう、ボンビージャという先に茶こしのついたストローで吸う。ボンビージャは竹製のものもあるが、だいたいが金属製。だから、吸い口はかなり熱くなり、慣れるまではけっこう飲みにくい。茶こしをつけたまではよかったが、さすがラティーノだけあって、そこらへんの詰めはやっぱり甘い。
アルゼンチン人はマテの入れ方にはちとうるさい。やれ葉が焼けるから沸騰した湯は使うなだの、砂糖を入れた方がうまいのになんで入れないんだだのと、なかなか好きなように飲ませてくれない。彼らの言うところを総括すると正しいマテの入れ方とはこうなるらしい。
@マテ茶器いっぱいにマテの茶葉を入れる。
A砂糖を入れる。量はお好みだが、砂糖抜きは邪道。
B沸騰する直前の湯をそそぐ。(しかし、茶器はすでに茶葉でいっぱいなのでそんなには入らない。)
C湯を足しながら、仲間とかわりばんこにまわし飲む。
D適時、茶葉や砂糖を足す。
これが最も一般的なマテだが、けっこう濃くて苦い。もうひとつマテコシードという入れ方もある。
@カップ1杯の水にスプーン1、2杯の茶葉を入れて煮出す。
A沸騰する直前に挿し水をして、しばらく蓋をする。
私はカップに半分くらいまで茶葉を入れて、ほどほどに熱い湯を注いだものに砂糖抜きというどっちつかずな飲み方をしているが、要するに飲んでいる本人がうまいと思えばなんでもいいのである。
このマテに対する偏愛はどうもアンデス山脈を越えることはなかったらしく、チリではアルゼンチンに近く、なおかつ寒い地方以外ではまず飲まない。マテはアルゼンチンの大部分においては単なる社交的な嗜好品にすぎないが、パタゴニアでは重要な役割を果たしている。パタゴニアの冬にはちょっとやそっとの厚着くらいでは太刀打ちできない。始終熱いものを摂って、内側から温めないと身体が動かなくなるのだ。砂糖を入れるのもとにかくカロリー摂取のため。熱いマテでも飲まなきゃやってられん、そんな厳寒のパタゴニアでは野菜は短い夏の間だけ、しかも需要に追いつかないほどの量しか獲れず、牛肉同様に他の地方からの輸送に頼っている。冬の食事はもっぱら羊、マトンである。ことエスタンシア(大農園)では一日三食マトン。そんな食生活で不足しがちなビタミンを補っているのがマテなのである。ちなみにアルゼンチンでは年間1人平均90キロの肉を食べる。マテはその大腸癌一直線な度合の緩和にも多少は役立っているような気がする。
アルゼンチン人もたいがいマテ好きだが、ラ・プラタ川の対岸にはその偏愛ぶりをうわまわる国がある。ウルグアイである。右手に魔法瓶、左手にマテ茶器を持って、サラリーマンは営業に向かい、恋人たちはマテを持ったまま、腕を組んで歩いている。スーパーのレジに並びながらマテを飲み、信号が変わるのを待ちながらマテを飲む。とにかく隙があればマテを飲む。ウルグアイの街角では魔法瓶とマテ茶器、マテ茶葉、そしてボンビージャのマテ一式を入れる皮製のショルダーバッグが100ウルグアイペソ(6月半ばの滞在時は1ドル≒16.5ペソだった。)くらいで売られていて、それはどうも男性の必需品であるようだった。ウルグアイ人よ、そこまでマテが好きか。
アルゼンチンからパラナ川の対岸に渡ると今度は冷たいマテを飲む国がある。パラグアイである。水でもちゃんとマテは出るのである。しかもただの水ではなく、アロエなどの薬草を直接ひたしたものや煮出して冷やしたものを使う。この冷たいマテはテレレと呼ばれている。パラグアイでは牛の角や金属でできた、グァンバというマテ茶器がよく使われる。冷たいマテを飲むのはもちろん暑いからで、寒いときはアルゼンチン、ウルグアイと同じように温かいマテを飲む。パラグアイ人のこだわりはテレレに入れる薬草にある。パラグアイの街角には薬草売りがいて、お客の好みや症状にあわせて小さな臼と杵でついてブレンドしてくれる。庭で自分で栽培している人もいる。夏のパラグアイは冬のパタゴニアのちょうど逆で、40度を越えるうえに湿気が多くて蒸し蒸しするため、喉が渇いて冷たいマテでも飲まなきゃやってられんのだ。
ブラジルについてはパラグアイのシウダー・デル・エステ、アルゼンチンのプエルト・イグアスの目と鼻の先、フォス・ド・イグアスまでしか行っていないのでなんともいえないけれど、ワールドカップ優勝祝賀パレードの人波にもマテを飲んでいる人がいた。優勝の喜びをかみしめながら飲むマテはまた格別だろう。
アルゼンチンに続いてウルグアイも金融危機。アルゼンチンは7月14日から国際金融機関からの融資支援が始まり、ウルグアイも8月5日に融資支援が承認されたため、7月30日から停止していた銀行業務が再開された。パラグアイは7月15日に反政府デモで2人が死亡、239人が逮捕され、非常事態宣言が出たばかり。ブラジルの経済もおもわしくない。と、メルコスール(南米南部共同市場。アルゼンチン・ウルグアイ・パラグアイ・ブラジルの4ヶ国間での関税を撤廃している。)加盟国は軒並みガタガタだが、まあ憂いてみてもしかたがない。とりあえずゆっくりマテでも飲むとしよう。こんなときはマテでも飲まなきゃやってられんからね。
2002・8・8 チリ・サンティアゴにて執筆(アルゼンチン・メンドーサへの国境が積雪で閉鎖されて足止め中)
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