最終更新日 2002/08/02
チリ<その3>
”ポ”ってなによ、”ポ”って?!〜チリのスペイン語はまるでチリ語〜
中南米どこでもいえることだけれど、チリもやっぱりやたらと示小辞の”to”をつける。どういうことかというと、たとえば私の名前は「きょうこ」なのでスペイン語表記だとKiokoになり、これに小ささや幼さ、相手に対する親しみ(見下すときに使うこともあるが)を表す示小辞がつくと、Kiokito、つまり「きょうこちゃん」となる。スペイン語では例外も多くあるものの、男性名はO、女性名はAで終わるので、特に中南米では女性名詞化してKiokitaとなることもある。
この示小辞、スペインでもよく使われるのだが、中南米のほうが圧倒的に多用される。”tesito”(té=茶、紅茶)、” sopita”(sopa=スープ)などなど、とにかくなんにでも”to”がつく。中米で初めて聞いたのが、”ahorita”。今、現在という意味の”ahora”に示小辞がついたものだが、これはスペインではまず言わない。スペインのバルでつい”ahorita”と言ってしまったら、隣にいたおっさんに大笑いされた。これはけっしてバカにした笑いではなく、東洋人なのに中南米のスペイン語をしゃべるというミスマッチがおかしいのだ。
同じスペイン語を話していても、アクセントや使う単語で出身がわかる。たとえば、”vale”。スペインではOKという意味だが、中米ではまず通じない。中米は地理的にもかなりアメリカの影響を受けているので、ごく普通に”OK”を使う。英語に引きずられている典型的な例は「コンピューター」。お山の大将スペイン人が”ordenador”と呼ぶのに対して、アメリカナイズされている中南米人は”computadora”と呼ぶのだ。ほか、「きれい」という形容詞として、”bonito”を使うのはスペイン人、” lindo”を使うのは中南米人。「スペイン語」を”español”と言うのはスペイン人、”castellano”と言うのは中南米人。「切符」を”billete”と言うのはスペイン人、”boleto”と言うのは中南米人である。
さて、中米では通じない”vale”。南米でも通じないだろうと思っていたら、なんとここチリでは一般的に使われているではないか。さすが、スペインをはじめ、ヨーロッパ系の移民が多いだけあって、スペインのスペイン語に近いのかと期待したのだが、それは甘かった。
まず、街角で驚いたのが”Se arrienda”と”Liquidación”。前者が「(不動産)貸します」、後者が「バーゲンセール」の意味。辞書にもちゃんと載っているし、見聞きすれば意味もとれるが、スペインでは普通、”Se alquila”、”Rebajas”を使う。市場に買い物に行っても驚きの連続だ。イチゴがfresaではなくfrutilla、モモがmelocotónではなくduraznoとなっている。frutilla、duraznoも辞書に載ってはいるものの、チリに来て初めて聞いた。こんな中南米語やらチリ独自の”チリ語”は挙げていけばきりがない。
チリのスペイン語はスペイン南部のアンダルシア訛りのようにSが落ちる。どういうことかというと、たとえばスペイン語でアメリカ合衆国はESTADOS UNIDOS。標準スペイン語ではエスタドスウニドスと発音されるが、アンダルシアやチリではエッタドウニドとなるのである。中米ではエルサルバドルもSがとぶ。同じ国内でも地方や個人で差はあるものの、このしゃべり方はちょっと舌足らずで可愛らしい感じがして大好きだ。
しかし、なんといっても”チリ語”最大の特徴は”ポ”なのである。”ポ”に始まり”ポ”に終わると言っても過言ではない。”ポ”に比べたら、これまでちんたら述べてきたことなど、ほんの枕にすぎないのである。
さて、その”ポ”とはなんぞや。それが実はよくわからないのだな。とにかく”ポ”は動詞にも形容詞にも名詞にも無節操になんにでもつく。これまで耳にしたことがある例を挙げてみよう。”No se po.”(知らないポ)、”Sí po.”(そうだポ)、”Claro po.”(もちろんポ)、”Valparaíso po.”(バルパライソだポ)、”Estupendo po!”(素晴らしいポ)。英語スピーカーがFUCKIN'、スペイン語スピーカーがMIERDAなどのいわゆる卑語をはさみこむのと同じようなタイミングと頻度で、”チリ語”には”ポ”が入る。ただし、”ポ”は必ず語尾につき、それ以外のところにはおさまることはない。
チリに着いてしばらくは、「”ポ”ってなによ、”ポ”って?いったいなんなのよ、”ポ”って?!」と標準スペイン語にはけっして存在しない”ポ”にとまどっていたが、今となってはそのなんとなく可愛らしい響きのとりこになってしまっている。このままチリに居続ければ、私のスペイン語に”ポ”が混じり出す日も近いだろう。